上野不動産新聞69号「食味散歩」に掲載した記事と写真の実物を紹介します。
上野駅中のエキュートの一番奥の目立たない所にその店はあります。店の名前はサントリーの白州醸造所ができた年にちなんでいます。
ちょっとしゃれた小さなバーです。
「夜は込むんでしょうなー」
私はカウンターの中でコーヒーを準備している若い女性のスタッフに話しかけます。
「そうですねー、夜は5時頃から店が終わる11時までいっぱいです。」
彼女は仕事の手を休めずに、にこやかに答えます。
朝8時、店の客は私ひとりです。
店の両サイドの宇都宮線と高崎線のホームから上ってくるせわしない出勤の人の流れか続いています。
この店だけが世間の慌ただしい流れから取り残されて静かです。
コーヒーが届きます。
ゆったりと最初の一口を啜ります。そして、白州のミントの葉を入れたハイボールのすっきりした軽やかな味わいを想像します。サントリーには文化が詰まっているって誰か言いませんでしたっけ。あの開高健と山口瞳がいた会社なんだから、なんて、喧騒から取り残された場所で一人コーヒーを飲み、夢想に浸る、これも有ですね。